BRAND VIEW | アンチ・ヒーローはやってきた

Written by YUKI

/ CFO

 

October 27, 2020

 

 

皆さんこんにちは。

風の冷たさも景色に混ざる赤や黄色も、本格的な秋の到来とすぐそこに迫る冬のはじまりを伝えているような今日この頃ですね。

北半球の国々はこの冬の感染症をどうやって乗り越えるのか、考えずにはいられません。

 

何度かにわたってお伝えしているアメリカ大統領選の投票日が、いよいよ来週へと迫ってきました。

注目の第2回討論会も終わり、勝負は両候補が各州を実際に巡っていかに最後の票をまとめることができるのかという点にかかってきました。

世論調査では依然バイデン候補の優勢が伝えられていますが、世論調査の劣勢をひっくり返して前回当選を果たしたトランプ氏だけに、まだまだ目が離せません。

 

さて、そんな白熱する選挙戦の最中ですが、この戦いに奇妙な形で加担する「Qアノン」という陰謀論者たちの存在が色々なメディアで報じられているのをご存知でしょうか。

アノン = Anonymous(匿名)の略で、Qはこの活動を開始した人物といわれている「Q」のことを指します。

奇妙なことに彼らは何か実体のあるグループではないのですが、オンライン上で緩やかに形成された、ある「陰謀論」を信じる人々の集団です。

 

そして、その陰謀論とは「民主党(バイデン候補の所属する政党)の政治家、一部のハリウッドセレブや社会的エリートたちは、悪魔に魂を売り渡し、国際的な児童人身売買に関与している。そしてトランプ大統領は彼らと日夜戦う正義のヒーローだ」というものです。

 

馬鹿馬鹿しい、とお思いになった方も多いと思いますが、世論調査によるとなんとアメリカ国民のおよそ7%が、大なり小なりQアノンの主張を信じていると言われています。そのくらい彼らがオンライン上で展開している布教活動は巧妙なものです。最近トランプ氏の選挙活動の際「Q」の文字がプリントされたプラカードやTシャツを持っている人々が映ることがありますが、彼らは皆Qアノンの熱心な信奉者たちです。

 

ここで思い出して頂きたいのが、以前私が書いた「アンチ・ヒーローはどこからやってくるのか」、「恐怖の存在」の2つの記事です。

 

「アンチ・ヒーローはどこからやってくるのか」では、社会の主流から外れてしまった人々の中からアンチ・ヒーローと呼ばれる反社会的ヒーローが誕生すること、そして「恐怖の存在」では、社会不安が増大するタイミングでは様々な「陰謀論」が流布しやすいことをお伝えしました。

 

このQアノンの躍進は、まさにその両方が同時に発露した結果と言えます。

 

コロナウイルスの流行で社会的不安が増大するとともにトランプ以前の「科学主義」や「知性主義」への回帰が叫ばれ、選挙でもトランプ氏の劣勢が報じられる中、再び社会の傍流に押し流されることを恐れた人々にとって、リベラル派の民主党や既得権益側に属するセレブリティたちが本当は「悪者である」というのは実に都合が良い言説です。

 

面倒な科学や知性を排除し、分かりやすい言葉で「古き良きアメリカ」への回帰を叫ぶトランプ大統領をヒーローとして祭り上げたい人々の心理は、厳重な感染症対策にうんざりして「コロナはただの風邪」という説を支持し始めた人々と本質的には同一のものと考えられます。

 

本来主流にいるはずのアメリカ現職大統領が「アンチ・ヒーロー」というのも奇妙な話ではありますが、いまトランプ氏はQアノンにとって紛れもないアンチ・ヒーローとして立ち上がりました。

 

これが示唆することは一体何でしょうか。

 

それは、11月の選挙で仮にバイデン氏が勝利した場合、アメリカ国内の情勢は大きく荒れる可能性が高い、ということです。

 

アンチ・ヒーローという存在は、主流の思想から外れてしまい、社会の傍流で不満を抱える人々の中で最も輝くものです。

 

今回のケースで具体的に考えると、民主党勝利によって厳格化する感染症対策への社会的不満、コロナの流行により長期化する不景気、政権交代により引き起こる株価下落などのマイナス要因が積み重なる中で、トランプ氏が表立ってバイデン氏や民主党を非難し続けた場合、不満を抱える人々が彼を「ヒーロー」として担ぎ上げる動きが加速する可能性があります。

 

中でもQアノンを信奉する人々の設定によれば民主党政権はまさに「悪の巣窟」な訳ですから、たとえ過激な手段を用いた抗議を行っても、彼らの中では正当化される可能性が高いのです。

 

非常に恐ろしいシナリオではありますが、このQアノンの躍進は、いまアメリカがまさにその可能性の瀬戸際にいることを示していると私は考えます。

 

これらを踏まえると、いまトランプ・バイデンの両氏に何よりも求められていることは、仮に勝利しても敗北しても、選挙の後には心から相手と国民を称え、国内の分断を収めるように働きかけられる器の大きさとリーダーシップです。

 

果たして彼らにはそれが備わっているでしょうか。

 

これまでの対立を見る限りでは非常に怪しいと言わざるを得ませんが、アメリカという民主主義大国の二大政党のリーダーとして、選挙後の振る舞いには期待したいところですね。

 

それでは!

 

 

 

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