BRAND VIEW | アンチ・ヒーローはどこからやってくるのか
Written by YUKI
/ CFO
September 6, 2020
今週も暑い日が続きますね。
どんなに暑くてもマスクを外せないことも多い今日この頃ですが、皆さんくれぐれも熱中症にはお気を付けください。
さて、つい先日所用で渋谷へ出かけたところ、異様な人々が駅前に集まっているのを見かけました。
「コロナはただの風邪」と書かれたのぼりの周囲を、マスクをつけていない数十人もの人々がぐるりと囲み、何か叫んだり歌を歌ったりしているのです。
中にはベビーカーや抱っこひもで来ているお母さんらしき方もいらっしゃいました。
後で知ったのですが、この活動は「クラスターフェス」というらしく、先日の都知事選にも出馬していた平塚さんという方を中心に「新型コロナウィルスは存在しない」ことを証明しようとしているそうです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/76e47dc2ce6608e018fe37bc92be296e381f76fa
日夜新型コロナウィルスの脅威と戦ってくださっている科学者や医療関係者の皆さま、そして感染症予防を欠かさずに過ごしている大勢の方々からすれば絶対に許せない行為であるのは間違いありません。私も個人的には、彼らの行いは非常に無責任で、誤った認識に基づいたものであると考えています。
しかし今回は敢えて彼らの存在の是非を問うのではなく、彼らは一体なぜ、どこからやってくるのか、ということについて少し考えてみたいと思います。
突然ですが、皆さんは「アンチ・ヒーロー」あるいは「ダーク・ヒーロー」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
「社会の主流とは異なる価値観や正義感のもとに行動するヒーロー」と聞けば、恐らくいくつか思い浮かぶ映画やドラマ作品があるのではないでしょうか。
アベンジャーズに登場するような典型的な「正義の味方」とは一線を画するヒーローたちです。
例えば昨年のアカデミー賞にもノミネートされた『ジョーカー』。彼は元々バットマンに登場する悪役ですが、世界中に多くのファンを持つダーク・ヒーローです。
他にも昨年Amazon Prime Video で大ヒットした『ザ・ボーイズ』、一昨年の大ヒット映画『ヴェノム』、さらに遡ればR15+作品として史上最大のヒットとなった『デッドプール』など、近年の作品だけでも枚挙に暇がありません。
実は「アンチ・ヒーロー」の起源は非常に深く、その誕生は古代ギリシャまで遡ると言われています。
詩人ホメロスの著作『イリアス』に登場するテルシーテースというキャラクターは、アガメムノンやアキレスといったトロイ戦争の英雄たちを「強欲」や「臆病者」などと罵り、最後はアキレスに殺されてしまうという滑稽なキャラクターなのですが、実は本当に言いたかった「正論」を喋らせるためにホメロスがあえて登場させた「アンチ・ヒーロー」だと言われています。
ルネッサンス期の作品などにも「アンチ・ヒーロー」的な創作は多く描かれ、18世紀以降は明確な概念として定着していったと言われています。
例えば、ドン・キホーテやアルセーヌ・ルパンなどは典型的なアンチ・ヒーローです。
アンチ・ヒーローは時代や場所を問わず、世間の「主流」から外れてしまったことに息苦しさや閉塞感を感じる人々の中から生まれ続けてきました。
アベンジャーズのような優等生的なヒーローが流行れば流行るほど、その価値観についていけない人々は別のヒーロー像を求めます。
生まれが裕福なゆえに大上段から正義を振りかざすバットマンやアイアンマンのようなヒーローが幅をきかせるほどに、貧困の中にある民衆の怒りや鬱憤を象徴するジョーカーが支持を集めるのは当然の成り行きです。
少し話を戻します。
いま社会の主流にある考え方は「新型コロナ・ウイルスを封じ込めるために、我々は感染予防対策を徹底しなければならない」や「ウィズ・コロナの時代に適応しなければならない」などといったものです。
その主流の考え方に基づけば、いま最前線でウイルスと戦っている科学者やお医者さん、ウィズ・コロナ時代の生活を支えるIT企業の経営者たちは、まさに「ヒーロー」です。
その一方で、そんな「正しさ」に息苦しさを感じている人々がいます。
経済活動の自粛によって失業してしまった方々、学校に通えない学生の方々、急な生活の変化に体調を崩してしまった方々にとって、「ウィズ・コロナ」などという言葉はどれだけ空しく響くでしょう。
この平塚さんという方は、そんな歪みの中から必然的に出現したダーク・ヒーローなのだと考えられます。
ヒーローが社会の光であるならば、アンチ・ヒーローはその影です。
どんなに光を強くしても影が消えることはなく、むしろ濃くなっていく一方です。
2016年のアメリカ大統領選で、時代の主流にいる「ヒーロー」たちがヒラリー支持を叫べば叫ぶほどに、「アンチ」であったはずのトランプ陣営が勢力を拡大していったように。
いま平塚さんのような存在を前に、私たちができることは何でしょうか。
この記事がいま一度、皆さんが改めて考えるためのヒントになれば幸いです。
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