BRAND VIEW | 敗者の見る景色 ブロックバスターとNETFLIX

Written by YUKI

/ CFO

 

February 5, 2021

 

 

皆さんこんにちは。

先週は、私が毎年注目しているマンガ大賞の最終候補作品が発表になりました。

https://www.mangataisho.com/news/2021/01/2021-1.html

 

メジャー雑誌の連載作品の割合が下がっていく一方、年々オンライン漫画のノミネートが増えてきたのが何だか感慨深いです。今まさに私たちは時代の変わり目にいるということなのでしょう。

 

さて、何度かこのコラムに書いてきた通り、このCOVID-19の大流行をビジネスという側面から見ると、このわずか1年間のうちにあらゆるビジネスのオンライン化が10年分は進んだということができると思います。

 

以前書いたコラムでは、どんな企業がこの時代の勝者になっていくのかについて私見を述べました。

* BRAND VIEW | 新時代のホームエンタテインメント戦争(2)

 

 

今回は、逆にこのような時代の流れに飲まれてしまった「敗者」に目を向けてみましょう。

 

皆さんは「ブロックバスター」という企業をご存知でしょうか。

聞いたことがないという方も多いのではないかと思います。

 

ブロックバスターはいまからたった15年前、全世界に9000店ものストアを経営する世界最大のレンタルビデオチェーンでした。2021年現在、世界9位の飲食チェーン、あのサーティーワンアイスクリーム (Baskin Robbins) でさえ全世界に7000店舗しかないと聞けば、当時のブロックバスターの規模が何となく想像できるのではないかと思います。

 

Video On-Demandの波に飲まれ2010年に破産へと追い込まれてしまったこの企業ですが、実はこのブロックバスターこそが、あのNETFLIXを押さえて世界のホームエンタテインメント市場の覇権を握るはずの企業でした。

 

一体何が起こってしまったのでしょうか。



2007年、NETFLIXがオンラインのDVDレンタルからVideo On-Demandへとビジネスを移行し始めた頃、当時レンタルDVD市場で圧倒的なシェアを誇りつつ、Blockbuster Onlineというオンラインサービスでも急成長を見せていたブロックバスターは、10億ドルもの資金を投じてTotal Accessというキャンペーンを立ち上げようとしていました。

 

Total AccessはBlockbuster Onlineを通じてインターネットでDVDをレンタルした顧客が、それを返却すると同時に次のDVDを無料で借りることができるという画期的なキャンペーンで、当時収益化に苦しんでいたNETFLIXに致命傷を与えるはずの施策でした。当時ブロックバスターの社長だったジョン・アンティアコは、この施策でNETFLIXの息の根を止めることができるだけではなく、顧客が一定の数に達した時点で収益化ができるという見通しまで持っていたと言われています。

 

このままでは倒産に追い込まれてしまうことを察したNETFLIXの創業者にして現CEOのリード・ヘイスティングスは、ジョン・アンティアコに電話をかけました。彼は仇敵であるアンティアコに対して「Block Buster Onlineを売ってくれないか?」と持ちかけたそうです。会社の存続をかけた交渉にも関わらず、ヘイスティングスは当時仲が悪かったアンティアコに対して頭を下げることはできず、結局交渉は決裂してしまったそうです。これでNETFLIXは破滅へと追い込まれていくはずでした。

 

しかし、ここでNETFLIXにとって最高の幸運、そしてブロックバスターにとっては最大の悲劇が襲いかかります。ブロックバスターの最大の投資家であったカール・アイカーンという人物が、Total Accessの実行に待ったをかけたのです。

 

ブロックバスターへの投資で多額のお金を失っていたアイカーンは、ブロックバスターがTotal Accessの実行で更に損失を広げることを恐れました。また、利益を出せていないにも関わらず多額の報酬を受け取り続けるアンティアコに我慢がならなかったアイカーンは、アンティアコを更迭して米国のセブン・イレブンでCEOを務めていたジェームズ・キーズ氏を新たなCEOに据えました。

 

Video On-Demandがこれからの主流になっていくことを悟っていたアンティアコやリード・ヘイスティングスとは違い、キーズは顧客が家庭で自由自在に映画をダウンロードして視聴できる未来、ましてや全ての人が手のひらサイズの小さな通信端末で映画を楽しめるようになる未来を、信じ切ることはできませんでした。そして、そのビジネスに全てをかけていたNETFLIXという敵を、完全に過小評価してしまったのです。

 

キーズはNETFLIXを完全に葬り去るはずの切り札、Total Accessを最後まで承認することはありませんでした。彼は、顧客が自前のUSBを持ってブロックバスターの店舗を訪れ、そこでポップコーンやドリンクを購入し、USBに映画やドラマをダウンロードして家に持ち帰って視聴する...そんな未来を捨てられなかったのです。

 

そこからのブロックバスターの転落は想像に難くないでしょう。ブロックバスターが資金を投じてせっせと店舗の拡張に力を入れている頃、NETFLIXはVideo On-Demandを順調に成長させ、急成長を遂げていきました。アップルやプレイステーション、Smart TVなど様々な端末との連携を進め、様々な家庭がNETFLIXで動画が視聴できる環境は瞬く間に整っていきました。

 

そしてキーズがCEOに就任してからわずか3年後の2010年、世界最大のレンタルビデオチェーンだったブロックバスターは遂に破産へと追い込まれます。その後の再編の努力も虚しく、いま世界に「ブロックバスター」の名を残した店舗は、1店舗たりとも残っていません。カール・アイカーンは2011年のインタビューで「ブロックバスターは私の投資家人生の中で最大の失敗だった」と振り返っています。

 

2000年にNETFLIXの買収話を断ったばかりか、その後自らの報酬に拘るあまり投資家を怒らせ更迭されたジョン・アンティアコ

 

ブロックバスターをファンドに売却して短期で利益を上げるという目論見を外し、高額報酬を受け取り続けるアンティアコへの憎しみに囚われてしまったカール・アイカーン

 

既存の店舗を捨てることができず、将来のビジョンと競合を見誤り、遂に会社を破滅へと導いたジェームズ・キーズ

 

彼らは全て時代の流れに飲まれていった敗者たちです。

 

2021年、遂に世界の有料会員数が2億人を突破し、今なお成長を続けるNETFLIXの姿を見て彼らは一体何を思うのでしょうか。

 

私は考えられずにはいられないのです。



いかがだったでしょうか。いつも勝者について語られる「新時代のビジネス」を、今回は敗者の視点から振り返ってみました。

 

皆さんが、ビジネスの戦略を考える一助になれば幸いです。

 

それでは!

 

 

 

 

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