BRAND DESIGN | 建築家 藤本壮介(後篇)

Written by TAN

/ Architect, Creative Director, CEO

 

November 8, 2020

 

 

建築家の山之内淡です。

今回は、前回の記事「BRAND DESIGN | 建築家 藤本壮介(前篇)」の後篇として、現在世界で最も注目されている建築家であり、自分の師匠でもある、“藤本壮介(Sou Fujimoto)” についてご紹介していきます。

 

今回の後篇では、建築家・藤本壮介(以下、藤本さん)の原点となった初期作品を中心にご紹介しつつ、自分のエピソードも絡めてお話できればと思っています。




まずはじめにご紹介するのは、藤本さんの名前が世界的に広まるきっかけとなった、初期の住宅建築作品 “HOUSE N” です。

複数の開口のある箱が入れ子状に重ねて配置され、徐々にグラデーションをつくりながら、屋内空間と屋外空間が混ざり合っていく、そんな住宅です。



* HOUSE N, Sou Fujimoto, 2008

* https://www.archdaily.com/7484/house-n-sou-fujimoto



上記の “HOUSE N” は、世界中で高い評価を受け、建築家・藤本壮介の名前を世界レベルへと押し上げた作品といえると思います。

 

 

続いてもう1作品、“HOUSE K” をご紹介します。

* HOUSE K, Sou Fujimoto, 2013

* https://www.designboom.com/architecture/sou-fujimoto-house-k/

 

 

“HOUSE N” と “HOUSE K” を見るとわかるように、藤本建築の特徴として、屋内空間と屋外空間を混ぜ合わせようとする姿勢があります。

その作風がわかりやすく提示された作品(建築の言葉でいうと、「タイポロジーとして明快である」という意味です)が、“HOUSE N” と “HOUSE K” であるといえます。

 

 

 

ここで、「建築の作品性の高さと、実際の不動産価値は連動するものである」というお話を、少し寄り道してお話したいと思います。

 

通常の不動産であれば築年数とともに減価償却していく(価値が減っていく)のに対し、建築家の設計する建築は作品としての付加価値が生じるため、不動産として資産価値が下がりにくい、という他にない特徴があります。

これを「再販価値(リセル・バリュー)が高い」と表現し、建築家の仕事が今後もなくならないであろう大きな理由です。

住まいを設計し、それが建築作品として高付加価値を帯びるというのは、不動産の資産形成の観点からしても、ひとつのベストアンサーといえると思います。




さて、“HOUSE N” と “HOUSE K” は、藤本建築の大きな特徴である「屋内と屋外が混ざり合うデザイン」についての代表的な事例でしたが、

次にご紹介する “Final Wooden House” と “HOUSE NA” は、藤本さんの作風のもうひとつの大きな特徴である「家具スケールで構成される内部空間」についての代表的な事例になります。

 

早速、作品を見ていきましょう。



* Final Wooden House, Sou Fujimoto, 2006

* https://www.archdaily.com/7638/final-wooden-house-sou-fujimoto

 

 

この “Final Wooden House” は、350mm(椅子やソファの高さに相当します)の無垢の角材のみを用いて、立体的な内部空間をデザインしています。

太い角材を積み上げる操作のみで設計を完結させるという、ダイナミックで荒々しいコンセプトとは裏腹に、内部空間の設計の緻密さに圧倒されます。

 

続きまして、“HOUSE NA” をご紹介します。



* HOUSE NA, Sou Fujimoto, 2012

* https://www.archdaily.com/230533/house-na-sou-fujimoto-architects



“HOUSE NA” は、家全体がひとつの大きな階段になっているような…木登りを楽しむような身体的体験が詰め込まれた、他にない素晴らしい住宅作品であると思います。

 

“Final Wooden House” と “HOUSE NA” は、「人間のスケールより小さな家具のスケールを基準に住宅全体が構成されていること」が共通する大きな特徴です。




整理しますと。

屋内と屋外が混ざり合うデザイン」と「家具スケールで構成される内部空間」の2つが、初期から中期における藤本建築のユニークな特徴といえると思います。

 

では、なぜその2つのユニークさに行き着いたのでしょうか?

理由は様々でしょうし、ひと言で語れるものではないとは思いますが…自分が藤本さんから聞いた話のなかに、大きなヒントがあるような気がしています。



次の図案をご覧ください。

先にご紹介した “HOUSE NA” のコンセプトを絵にしたものです。

建築用語では、以下のような図案を “Diagram(ダイアグラム)” と呼びます。


* Sou Fujimoto, Naomi Pollock, PHAIDON

https://amzn.to/2JEOuum



このダイアグラムを見せながら、藤本さんは言いました。

「自分のダイアグラムには、必ず人が2人以上描かれている、と指摘されて驚いた」

 

僕もそのように言われて、ハッとしたのを覚えています。

たしかに、藤本さんのダイアグラムには、人が2人以上描いてあることが多いのです。



ここからは自分の解釈になりますが…

「人が必ず2人以上描いてある」ことの真意は、「関係性の変数を、1つ増やしている」ことにあると思っています。

これまでの建築は、「人と建築」の関係を考えてきたので、関係性の変数が「人」と「建築」の2つのみでした。

しかし、藤本さんの建築では、「人」と「建築」と「人」の関係を考えているため、関係性の変数が3つになり、従来の2つよりも1つ多いのです。

 

「人と建築と人」の関係という、3つの関係性の変数。

従来の建築家よりも関係性の変数を1つ多く抱えることによって、藤本建築の大きな特徴である「屋内と屋外が混ざり合うデザイン」と「家具スケールで構成される内部空間」が生まれてきたように思えます。

 

そして、初期に現れた上記2つの作風は、徐々に繋がっていき、

予算が莫大で、建物としても巨大化した、ここ数年の新作群において、「人工物ではあるけれども、どこか自然物らしさを感じる」という、

前篇でお話した「日本人建築家らしさが伝わる表現」として結実していったのではないかと思います。



日本では、まだ藤本さんの作品は多くありませんが、“武蔵野美術大学図書館” は代表作品のひとつですし、つい先日、まるで小さな山のようなアートホテルも竣工しました。

また、森ビルが進める虎ノ門・麻布台の数千億円規模の開発において筆頭建築家のひとりとして参画されていますし、津田塾大学キャンパス計画のマスターアーキテクトにも選出されています。

日本でも徐々にですが、藤本さんの作品が増えつつありますので、頭の片隅で是非覚えておいていただけたらうれしいです。

 

藤本さんは、2020年11月現在49歳。自分は現在34歳ですので、15歳ほど年齢差があります。

あと15年で、このレベルに追いつかないとならないのか…と思うと、建築家という仕事は、本当に挑戦のしがいがあるなあ…としみじみ感じます。

一歩ずつ進んでいけたらと思っていますので、応援していただけたら光栄です。

今回も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




 

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