BRAND VIEW | Prayer for the "United" States

Written by YUKI

/ CFO

 

November 8, 2020

 

 

皆さんこんにちは。

 

実はつい昨日まで全く別の記事を用意していたのですが、今回はこれについて書かないわけにはいかないと思います。今日ようやく決着を見た、長きにわたったアメリカ合衆国大統領選挙の結果についてです。

 

つい先ほどバイデン氏による勝利スピーチがありましたので、今回は特にその内容について詳しく内容を見つつ、私なりの評価をしてみたいと思います。

特に今回のスピーチでは、通常の大統領選挙の勝利スピーチの中では見られないような、象徴的な言葉がいくつかありました。まとめると、

 

・分断ではなく統一を目指す

・全ての国民の大統領として、トランプ氏に投票した人々のためにも、自分に投票してくれた人々へと同じように尽くしたい

・選挙中はいがみ合ったが、Red States(共和党支持の州)、Blue States(民主党支持の州)があるのではなく、全てがUnited States(合衆国)だ

・まずは最優先で「科学に基づいた」コロナ対策を進めていく

・再び世界から尊敬されるアメリカを目指す

・カマラ・ハリスが史上はじめて女性かつアフリカ・アジアにルーツを持つ人物として副大統領になったように、アメリカでは誰にでもチャンスがある

 

などの言葉です。

 

まず第一のポイントは、国内で進んだリベラル派・保守派の分断について意識的に融和を促している点です。冒頭に数回 “Victory” という言葉が用いられはしたものの、全体としては民主党や反トランプ派へのアジテーションは最低限に抑え、共和党支持者も含めた国民全体に呼びかけるようなスピーチでした。

 

この点において思い出したのは、アメリカ合衆国史上唯一の内戦である南北戦争(The Civil War)の最中にリンカーン大統領が行った、かの有名なゲティスバーグ演説です。

1863年、南北戦争のさなか、奴隷制度の存続と自由貿易を求めて戦った南軍と保護貿易と奴隷の解放を掲げて戦った北軍、両方の戦死者を称え、アメリカ合衆国の建国理念と統一を説いたこの演説は、世界で最も有名なスピーチの1つとして知られています。

 

以前の記事「アンチ・ヒーローはやってきた」でも書きましたが、真っ二つに分断されてしまった国家をまとめて率いる上で最も大切なことは、立場は違えど同じく国を思って戦った人々を尊重し、労い、両者の思いを引き継ぐということです。

「人民の人民による人民のための政治」というフレーズや、「奴隷の開放」という点ばかりが語られることが多いゲティスバーグ演説ですが、この演説が本当に名演説たるゆえんは、大規模な内戦の真っ只中にありながらも、国を思い犠牲を払った両軍の「国民」を等しく讃えたその精神にあります。

 

選挙に勝利した直後の浮かれムードに流されず、しっかりと全ての国民に語りかけるメッセージを送ったバイデン氏のスピーチは、まるで21世紀における「ゲティスバーグ演説」のようであったと私は評価したいと思います。

願わくは、民主党支持の方々もしっかりとその思いを汲み取り、床に伏した敗者を足蹴にするような行為や言動は切に慎んで欲しいと思います。

 

次に大きなポイントだったのが、コロナウィルスへの対策についてです。

「まずはコロナウイルスをコントロール下に置くことが最優先」「徹底的に科学に基づいた防疫を行う」というスタンスは、明らかにトランプ氏との差別化を意識した発言だったと思います。

 

これは実はかなり重要な発言だったと考えています。

いまアメリカでコロナの感染に怯えている人々、これまでトランプ政権に蔑ろにされてきた医療関係者や科学者の人々には涙が出るほど嬉しい発言であったと思われる一方、また大規模なロックダウンが敷かれ、そのせいで失業するのではないかと怯えている人々の不安を払拭するメッセージは発せられませんでした。

 

コロナによる経済的な打撃を受けてきた人々の怒りを意図的に科学者に向け、彼らの支持を集めてきたトランプ氏であったことを思えば、今回のスピーチは今後のトランプ氏の同様の動きを制するような効果はなかったように思います。

 

私は科学に基づいた防疫を全面的に支持する立場ではありますが、今後政権から具体的な施策と共に、いま経済的困窮に苦しむ人々をいかにケアしていくかという道筋が示されることを願います。

 

最後にこのスピーチでもう一つ発せられたメッセージは人種差別への明確な反対です。

今回のスピーチでバイデン氏はAfrican American, Asian, Latin American, Native American...と具体的に多くの人種を列挙した上で、明確に “They are all Americans (皆同じくアメリカ人だ)” と述べました。そして、特に自分を信じてくれたAfrican Americanの人々への感謝を述べています。

これは単に「アメリカ人みんなに感謝する」というぼんやりとしたニュアンスではなく、今アメリカ国内に存在する全ての人種差別への反対を明確に表現していたと思います。

 

副大統領に就任したKamala Harris氏は、初めての女性副大統領であることに加え、初のアフリカ系・アジア系ルーツを持つ副大統領でもあります。

彼女の存在に加えて、バイデン氏からもこれだけ強い人種差別反対のメッセージが発せられたことは、いまアメリカに住む全ての非白人の人々にとって、実に心強いメッセージであったと思います。

将来アメリカへの移住を目指す海外の若者にとっても、「まだアメリカに夢を見られるかもしれない」、

そんな希望を抱かせる内容だったのではないでしょうか。

 

以上を総括し、私は今回のバイデン氏によるスピーチは、今の国内情勢に最大限に配慮した上で、トランプ氏との違いを明確に打ち出した名スピーチであったと思います。

これまで選挙戦の中でバイデン氏から発せられたどの発言よりも力強く、対抗馬であったトランプ氏の方ではなく、徹頭徹尾国民の方を向いたスピーチでした。

また今回は触れられませんでしたが、バイデン氏の前に行われたカマラ・ハリス氏のスピーチも大変素晴らしいものでした。

 

一方、今回のスピーチの中で一切外交や世界情勢について触れられなかったことは、議論をそこに踏み込ませるだけの余裕がいまのアメリカにないことを象徴しています。

かつて「世界の警察」と称されたアメリカでしたが、いまやコロナウイルスとの戦いにおいても世界をリードするどころか、最も大きなダメージを受けた国となり果てているのが実情です。

まずは国内をおちつかせることこれからの4年間、バイデン政権がどこまで外交の中で存在感を発揮できるのか、引き続き注視していきたいと思います。

 

最後に、このかつてないほどの一大選挙を戦った全ての皆さんへ、本当にお疲れ様でした。

これだけ多くの人々が政治について考え、議論し、投票に向かう姿は、まさに世界最大の民主主義国家と呼ぶに相応しいものであったと、心から敬意を表します。

 

これからの4年間が、全てのアメリカ国民、そして日々アメリカと関わる世界中の人々にとって輝かしいものになることを、心よりお祈りいたします。

 

 

 

 

次の記事を読む ⇨

BRAND STORY | Column:わたしの好きな、猫との時間 vol.5

BRAND VIEW | Prayer for the "United" States