BRAND DESIGN | 人生に大きな影響を与えてくれた作品たち(1)漫画版 風の谷のナウシカ

 Written by TAN

/ Architect, Creative Director, CEO

 

August 30, 2020

 

 

建築家の山之内淡です。
これまでの記事を読んでくださった方々から、直接ご連絡をいただいたりもしました。
こうして『 THE LETTER 』を書きはじめて、本当に良かったなあ…と感じています。
今後とも、Mr. & Ms. Cat をどうぞよろしくお願いいたします。


さて、今回からのシリーズでは、自分の建築家として、もっと広くいえばモノづくりとしての人生に、とても大きな影響を与えてくれた様々な作品、
そして、今なお影響を受け続けている素晴らしい作品たちを、分野を横断しながら、ひとつずつご紹介していこうと思います。


第一回目に、みなさんにご紹介したい作品は、”風の谷のナウシカ” の漫画です。



* 宮崎駿, 徳間書店, 1984 - 1995
https://amzn.to/2YtDFQj

* 最終巻の第7巻は、特に圧巻です…
* 2冊組の豪華装丁版も刊行 https://amzn.to/2YziPz4




”風の谷のナウシカ” の漫画は、自分も含め、熱狂的な読者が数多くいる印象があります。
この漫画が好きな人同士は、初対面でもすぐに仲良くなれてしまうのは、自分も何度も経験しています。

しかしその一方で、映画版の完成度が非常に高いことが理由かと思いますが…漫画版の存在自体は知っていても実際には読んだことがなかったり、存在自体を全く知らない方も多い印象があります。

自分の場合、ひと回り歳上の姉が熱心な読者だったおかげで、漫画版の存在を早くから知ることができました。

しかしそうでなければ、自分が生まれる前から連載されている作品ですので、知るのがかなり後になった可能性は否めません。
ということで、まずは、 ”風の谷のナウシカ” の漫画の作品概要から、簡単にご紹介したいと思います。



”風の谷のナウシカ” の漫画は、映画が公開された1984年時点では、全7巻のうち2巻目までしか刊行されていませんでした。
つまり、映画版と漫画版では、物語もテーマも語られる思想も、全く異なるのです。

ジブリのプロデューサーとして有名な鈴木敏夫さんが、徳間書店の編集者であった時代に編集長を務められていた ”アニメージュ“ という雑誌で連載されていた作品です。
そして、完結まで、非常に長い時間がかかった作品であることも、本作の大きな特徴のひとつです。

「宮崎駿監督が、映画制作をしている間は休載し、映画制作が終わるとまた連載が再開する」というかたちで、映画と漫画が入れ替わりで進み、少しずつ物語が紡がれていくという…稀有な道筋を辿った作品なのです。
そして何と…! ”風の谷のナウシカ” の漫画が完結したのは、1982年の初出から12年後、”紅の豚“ の公開後の1994年です。(最終巻第7巻は1995年刊行です。)

”風の谷のナウシカ” の漫画を完結させた宮崎駿監督は、その後、”もののけ姫“ を制作することになります。
その意味で、”風の谷のナウシカ” の漫画は、宮崎駿監督の10年以上にも及ぶ思想の軌跡が、生々しく反映されている、まさに宮崎駿監督の思想史といえる作品だと思います。



ここで、宮崎駿監督への、本当に素晴らしいインタビュー集である "風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡" より、
宮崎駿監督とインタビュアー渋谷陽一さんの対談の言葉を、ほんの一部ですが、以下に引用します。



 渋谷さん: ー コミック版の『ナウシカ』というのは何回も中断しますよね。あれはやっぱり宮崎さん的にはもう描けないって感じだったんですか。
 宮崎監督: 「いや、うーん、まず描きたくなかったです、ずーっと(笑)」
 渋谷さん: ー それはなんで描きたくないんですか。
 宮崎監督: 「大変なんですよね(笑)。一人でやってるとつらいんですよ。もうちょっと趣味的なもんならいいんですけどね。道楽で自分の雑念とか妄想したものを描いていくのは向いてると思ったんですけど、『ナウシカ』はやりたくないのにやってるでしょ? そうすると空いた時間にそっちをやりたくなるっていうことがよくわかって。・・・」
(中略)
 渋谷さん: ー だから、ほんとドキュメンタリーなんですよね。中断して復活すると、やっぱり当初の世界観から徐々にグッグッと、まさに東アジア的なものだと思いますけども、そういうものへって向いていきますよね。
 宮崎監督: 「(笑) だけど、ちゃんとそのあいだも映画は作ってるんです。ちゃんと真面目には作りましたから。でも映画が終わると『そろそろ再開を』って言われるでしょ、『そんなのできっこねえよ』って言うんだけど、結局始めちゃうんですよね。それを繰り返してたんですけどね」




* 宮崎駿, rockin'on, 2002
* https://amzn.to/3aUdK9D
* 自分の持っている初版本。文庫版も含め同じ本を4冊持っています。


上記の宮崎駿監督の言葉が、 ”風の谷のナウシカ” の漫画作品の魅力や、歴史を辿る著作としての価値を、そのまま物語っているようにも思えます。


そんな ”風の谷のナウシカ” の漫画ですが、自分自身にとってどのような存在なのか、まとめとしてお話をして、記事を締めたいと思います。

前回の記事「BRAND DESIGN | THE HOUSE ー 建築家が描く、猫との “住” の未来(後篇)」でも触れさせていただいたように、
自分の中の大きなテーマとして、「人間だけでなく、動物・植物・人工物にも、等しく魂が宿る」と考える、”アニミズム” の思想を建築として何とか具現化したい、という思いがあります。

そのテーマこそが、 ”風の谷のナウシカ” の漫画からもらった、とてもとても大きな贈りものなのです。
※以下、留意しますが、ネタバレを含みます。



”風の谷のナウシカ” の漫画は、前述したように、宮崎駿監督の思想の経年変化を、直に反映している作品です。

最も高潔で美しい「王蟲」という生物が、実は人が生み出したモノ(人工生命)であったという事実。
同時に、音楽や詩や農作物を後世に守り伝える使命を負った庭の主や、ナウシカをはじめとした腐海とともに生きる人類ですらも、人の造りしモノ(人工生命)であったという事実。

最終巻第7巻で、宮崎駿監督が提示する思想は、それらの衝撃的な事実、まさにこの世界を形づくる "世界の秘密" をもとに、怒涛のスピード感と鬼気迫る迫力で語られていきます。

“ある目的をもって造られたモノ” の代表として、人工生命が描かれます。
そのモノには、あらかじめ定められた目的・機能の他に、価値や意義はないのでしょうか?
否。断じて、否である。と、この物語は語っています。

結びの言葉は、「生きねば。」
この言葉は、その後、約20年の時を経て、“ 風立ちぬ ” のキャッチコピーとして、私たちの目の前にまた現れます。



次回は、90歳を越えてもなお、世界中の建築家からの尊敬を集め続け、第一線を走り続ける建築家、Frank. O. Gehry(フランク・O・ゲーリー)について、作品と人物の両面から書きたいと思います。



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