BRAND VIEW | 私たちのヒーローはパンケーキを食べる

Written by YUKI

/ CFO

 

September 20, 2020

 

 

皆さん、こんにちは。

そろそろ夏の暑さも落ち着き、徐々に街が秋めいてきましたね。

 

そんな穏やかさとは裏腹に、今週はとうとう我が国の首相が交代するという大ニュースがありました。

本題とは関係ありませんが、私は以前、早朝の散歩を趣味にしていたことがあります。今から4年ほど前に毎朝虎ノ門近辺を散歩していたのですが、必ず同じ時間に、同じ場所で菅さんとすれ違うので驚いたことを覚えています。彼の人柄はメディアが伝えるところしか存じませんが、決まった時間に決まった習慣を守る方だというのは間違いなさそうです。

 

さて、政策や閣僚人事に関する考察は様々な経済紙に出回っていますので、今日は少し違う話をしたいと思います。

「菅首相はパンケーキが大好きだ」

という、ちょっと前からやたらとテレビのワイドショーで取り上げられるネタについてです。

この話題は少し前まで「菅官房長官が3000円のパンケーキを食べていて庶民離れしている」という批判的なトーンで取り上げられていたと記憶しているのですが、今は「甘党の親しみやすい首相」という、どちらかといえばプロパガンダ的な使われ方をしているようです。

 

同じような話は数多くあります。

例えば、つい先日全米オープンを制した大坂なおみ選手。いまや女性アスリートとして世界で最も高額を稼ぐスーパーセレブリティですが、彼女の好物はウナギだそうです。

なぜそれを私が、そして多くの日本人が知っているかといえば、メディアが執拗にそれを報じるからです。

彼女が初めてグランドスラムを制したとき、日本のメディアが「いま何が食べたいですか?」と質問したのを覚えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。

他にも毎回対局中に食べる昼食を熱心に報じられている棋士の藤井聡太二冠や、試合中のおやつタイムが有名なカーリング女子日本代表、メディアに好きな食べ物をきかれて「のどぐろ」を一躍有名にしてしまったテニスの錦織圭選手など、数え上げればキリがありません。

 

なぜ日本のメディアは、そして私たち日本人は、これほどまでに国民的・世界的ヒーローたちの好きな食べ物を知りたがるのでしょうか。

 

一つヒントになりそうなお話をご紹介したいと思います。

これはアメリカのウォルト・ディズニー社でリサーチの仕事をしている友人が教えてくれたのですが、数多あるディズニー作品の中で、日本とその他の主要マーケットにおける価値観の違いが一番大きく表れるのはマーベルのスーパーヒーローたちの人気なのだそうです。それは一体どういうことでしょうか。

 

例えば、アメリカにおけるスーパーヒーロー映画の興行収入ランキングを見てみると、上位にはずらりと『アベンジャーズ』シリーズが並び、次に『ブラックパンサー』、『アイアンマン3』、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』、『キャプテン・マーベル』と、近年の大作映画が続きます。

他にも地球の平和を守る『マイティ・ソー』や、銀河の平和を守る『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』なども上位に名前を連ね、基本的には新しく、かつ規模が大きい作品の人気が強い傾向が伺えます。

 

では日本はどうでしょうか。なんと、ランキングの1位は未だに2002年の『スパイダーマン』。2位は『スパイダーマン3』、3位は『スパイダーマン2』と、昔のスパイダーマンシリーズが圧倒的な強さを示しています。

近年の映画でも、『アベンジャーズ』を除けば新しい『スパイダーマン』シリーズの人気が圧倒的で、続いて『アイアンマン3』、その次がなんと『デッドプール』と、アメリカとは全く様子が異なります。他にも『アントマン』が上位にランクインしていたり、一方『マイティ・ソー』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の人気が低かったりするのも大きな違いです。

 

この奇妙な傾向について、ディズニー社としては次のような解釈に達したそうです。

 

「日本人は身近なヒーローが大好きな一方、地球や銀河を救うことにはあまり興味がない」

 

どうでしょう。身も蓋も無い言い方ですが、これは本当に言いえて妙だな、と私は思います。

 

基本的に国や地球、銀河に宇宙など「大きなもの」を守るマーベルのスーパーヒーロー達の中で、NYのご当地ヒーローである「隣人」スパイダーマンはある意味最もスケールが小さなヒーローです。それゆえ特別とも言える訳ですが、映像技術の進化と共に華やかなヒーロー映画が次々製作される中、未だに20年近くも前のヒーロー映画の興行収入記録が破られていない国は日本を置いて他にはありません。

また小さな体でミクロな戦いを演じるアントマンや、ヒーロー活動にそもそも興味がないデッドプールなど、比較的マイナーかつ低予算で製作されたヒーロー映画が、『ガーディアンズ』や『ソー』のようなメインストリームの映画より遥かに人気なのも日本だけの特徴です。

 

明らかに日本人は「スケールの小さな」「等身大の」ヒーローを特別に愛しています。

そしてメディアも、彼らに演出されるヒーローたち自身も、この日本人の性質を徹底的に理解しています。

 

馬鹿馬鹿しいと思うかも知れませんが、これは非常に重要なことを示唆します。

 

そう、この国でヒーローになるためには、国を守るよりも先に、世界に貢献するよりも前に、パンケーキが好きでなければならないのです。それも、できれば3000円もするホテルの高級パンケーキではなく、商店街の喫茶店で食べられるようなパンケーキが。

 

全ては、民主主義の名のもとに。

 

そして、国民に愛されるヒーローになるために。

 

 

 

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