BRAND VIEW | アメリカ大統領選のゆくえ
Written by YUKI
/ CFO
October 4, 2020
皆さんこんにちは。
あまりにも多くのニュースが駆け巡った一週間でしたが、今週はやはりこのニュースに触れないわけにはいかないと思います。そう、つい先日実施された次期アメリカ合衆国大統領候補者2名による、公開討論会です。
今回は、アメリカの二大政党である共和党と民主党の代表候補同士が直接相まみえたこの一大イベントについて、大きく3つの観点から私なりに総括をしてみたいと思います。
まずは、このイベントを「討論会」として見たときの全体的な評価です。
既に多くのニュースで目にされている方が多いかと思いますが、今回の公開討論会はあらゆるメディアから「史上最低」と酷評されています。
というのも、今回の討論会には「司会者の質問に対してそれぞれの候補者が2分間 ”遮られることなく” 回答し、その後オープンディスカッションを行う」というルールがあったのですが、それが殆ど全く守られなかったため、議論全体の秩序が崩壊してしまったのです。
要約すると、質問に対してバイデン氏が何か回答しようとする度に絶え間なくトランプ氏が割り込み、今度はそれを制止しようとする司会者のウォレス氏と話を止めないトランプ氏が言い合いになり、そのままなし崩し的にオープンディスカッション形式に移ってしまう…というやり取りが何度となく繰り返されました。
その結果として、両候補者が自身の主張を述べる時間よりも相手の発言を否定したり、相手を非難する時間が遥かに長くなってしまい、細かな政策や思想について踏み込んで議論することは難しい状況でした。言い換えれば、”I” ではなく “He” (あるいは “This guy”) から始まる発言が大半を占める討論だったと言えるでしょう。
New York Times は今回の討論会を「勝者は誰もいない (We all lost)」と表現しています。
このイベントをあくまで一定のルールのもとに勝敗を決める「討論会」として見た場合、私もまさしくその印象を持ちました。
次に、全体の中で議論された個別のトピックについて見てみたいと思います。
今回、トランプ氏の税金問題など個人的なものを除けば、司会者からの公式な質問として投げかけられた大きなトピックは以下の7つでした。
1)最高裁判事の人事について
2)保険制度について
3)COVID-19への対応について
4)経済政策について
5)人種問題について
6)気候変動問題へのスタンスについて
7)選挙システム(主にメールでの投票)について
今回は国防や外交的な問題はあまり取り上げられず、アメリカ国内の問題にフォーカスした印象です。
個人的な罵り合いを除けばどちらも目立って新しい発言はありませんでしたが、両候補者とも「痛いところ」を突かれたときにお互いのスタンスが垣間見える場面がありましたので、いくつか取り上げてご紹介したいと思います。
まずは人種の問題について。
司会者からトランプ氏に対して「あなたは白人至上主義者たち(White Supremacists)を非難しますか」という質問があったのですが、これに対しトランプ氏は「いま国内を荒らしているのは右翼 (Right Wing)ではなく、急進的な左翼団体(Radical Left)だ」と話を逸らします。
今度は同じく司会者からバイデン氏へ、一部暴徒化しているBlack Lives Matterデモの問題に質問が及ぶと、これに対してバイデン氏は「人々の生活を破壊しているのはコロナと気候変動だ」と、これまたズラした回答をします。
次にこれも非常に面白かったのですが、気候変動の問題について。
司会者からトランプ氏へ「あなたは人間の排出するCO2が気候に大きな影響を与えていることに同意するか」、即ち「地球温暖化を信じるか」、という趣旨の質問があったのですが、これに対しトランプ氏は「ある程度なら。しかし肝心なのは、空気や水がクリーンであるということだ」と回答しました。
またバイデン氏の方も、「極端な環境施策(グリーンニューディール)が経済に悪影響になるのではないか」という点を突っ込まれると、「私が支持するのは極端なグリーンニューディールではなくバイデン・プランだ」と、その中身を説明することなく回答します。
これらに一貫して言えるのは、両候補者とも「人種差別には反対」、「環境は大切だ」というスタンスを表向きは取りつつも、自分の支持基盤になっている人々の意に沿わない発言はできなかった(両候補者ともその強さはなかった)ということです。
普段と違う方向性の主張は大きく取り上げられやすいですし、効果的にやれば相手に流れている票の一部を自分の方に取り込める可能性があるのですが、今回は両者ともリスクを取ることなく安全な主張に終始した、と言えるでしょう。
最後に、今回の討論会を「選挙戦略に基づいた戦術」という観点から評価してみます。
つまるところ彼らの目的はお行儀よく討論会をこなすことでもなければ、メディアに褒められることでもなければ、究極的には社会問題への効果的な解決策を提出することですらなく、「選挙に勝つ」ことだからです。
言い換えれば、たとえ全てのメディアに史上最低の「討論会」だと罵られようが、実際は投票権を持つ国民に自分の持たせたい印象を持たせれば良い訳です。
まず私が見る限り、トランプ氏の根本的な選挙戦略は「強い大統領の姿を示すこと」です。
自身の強い姿を見せることを第一優先に考えたとき、最も効果的な戦術は何でしょう?
そう、実際に「勝つ」ところを見せることです。
そう考えれば、今回の彼の振る舞いは実に理にかなったものだったと言えます。
自分の信条や政治スタンスはどうでもよく、とにかくバイデン氏を言い負かす。
バイデン氏は自分より弱いと印象付ける。
そのためであれば、討論会のルールを無視したり司会者に食ってかかる態度も納得がいきます。
なぜなら、司会者の言いなりになっているバイデン氏と違い、自分には討論会のルールさえも適用されないのだ、と国民に示すことができるからです。
傍目には感情的な愚か者にしか見えないかもしれませんが、あれはかなり高度な戦術であり、トランプ氏はそれを忠実に実行したと私は考えています。
対照的にバイデン氏の基本戦略は、「大人で理性的なリーダーの姿を示すこと」のように見えます。
この目的を果たすため、バイデン氏は討論会の最中も極力トランプ氏に対してではなくカメラ目線で(つまり国民の方を向いて)語りかけるという戦術を用いました。
バイデン氏は高齢さに加えて彼の反応の遅さも相まって、シャープさに欠ける(知性的に弱い)という点が何度も指摘されていたこともあり、今回はなるべく具体的な数字やデータを示しながら話していたのも印象的でした。
トランプ氏との違いを出す上で、非常に効果的な戦略、および戦術だと思います。
ただし、純粋にその目的を果たすためであれば、理想的には「トランプの言うことなど意にも介さない」という態度を示すのが最も効果的でした。
トランプ氏への応答(Reactive Statement)としてではなく、毅然と、粛々と自分の意見だけを明確に述べ、国民に語りかけ続ける。
これが最も効果的、かつトランプ氏が嫌がる戦術だったはずです。
なぜなら、トランプ氏のことなど意にも介していないという態度は、そのままトランプ氏よりもバイデン氏が「強い」ことを示すからです。
トランプ氏はまさにそれをさせまいとあの手この手で攻撃を仕掛けたわけですが、バイデン氏は途中からかなりそれに乗ってしまった印象です。
バイデン氏の息子への攻撃や、バイデン氏の大学卒業時の成績を馬鹿にするような発言まであったため、それらをすべて無視することは困難だったとは思われますが、自身の戦略に則った「戦術」の実行度合いでいえば、今回はトランプ氏の方が一枚上手であったと私は考えます。
もちろん、これはトランプ氏のほうがリーダーとして優れているという意味では決してありませんが、恐らく今回の討論会をより有効にアピールの場として活用できたのは、僅差でトランプ氏だったのではないかと私は見ています。
とはいえ、これはまだまだ1回戦。
アメリカの、そして世界の多くの人々の命運を左右する大統領選はいよいよ来月本番です。
昨日はトランプ氏が新型コロナウィルスへの感染を公表するなど、先の読めない展開はこれからも続きます。
引き続き、経過を注視していきたいと思います。
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