BRAND VIEW | アメリカ合衆国の病巣

Written by YUKI

/ CFO

 

January 9, 2021

 

 

皆さん、こんにちは。

1月も間もなく中旬に差し掛かりますが、正月ボケも冷めやらぬうちに目も覚めるようなニュースが米国から飛び込んできました。

大統領選の選挙結果を受け、勝利したバイデン氏を次期米国大統領として認定する手続きが行われる中、それに反対する一派と思しき人々が議会を襲撃し、占拠したのです。

 

この事件は当然日本でも大きく報じられたのですが、内容としては「アメリカ大変だなぁ」位の報道が多く、この事件がなぜ後世に語り継がれるような大事件であるかについてあまり語られていないように思います。

今回は、この議会襲撃事件について主な論点をまとめてみたいと思います。



1)選挙結果を暴力で否定する=テロリズム

 

まず第一に、この事件を敢えて定義するならば、国の根幹を揺るがすテロ行為に該当するものである、ということです。

殆どの近代国家が根ざす「民主主義」というシステムの根幹は、コミュニティの主権=意思決定権を国民が持っている、というところにあります。平たく言えば「みんなのルールは、みんなで決めようね」という取り決めの元に私たちは生きています。そして、そのルール作りを担っているシステムこそが、国を運営する人たちを選ぶための選挙というわけです。

 

今回の大統領選挙において、激しい戦いの末に民主党のバイデン氏が勝利したわけですが、現職のトランプ氏はこれを不服として、選挙において大規模な不正が行われた、という指摘をずっと公にしてきました。システムは良くとも、その実行段階に不正や不備があれば、その結果に従いたくないというのは当然の主張です。

 

そして舞台は司法へと移り、裁判所の独立したシステムのもと、不正があったという確たる証拠、そしてそれが選挙結果を覆すほど重大なものである、という2点をトランプ氏が裁判で示せるかどうか、が争点になりました(結果として、それらの証拠が示されることはありませんでした)。

 

上記の流れは今まで何度か記事でお伝えしてきましたが、かなりヒートアップすることはあったにせよ、全てあくまで正当な「民主主義」のルールの中で起きた出来事だといえます。

 

しかし今回の襲撃事件は、それとは全く異質なものです。

「選挙結果が納得いかないから議会を襲撃してしまおう」

というのは、例えるなら、試合で負けたのが納得いかないから、試合結果が発表される前に審判を殴り倒してしまおう、というくらい悪質なものです。ルール違反と呼ぶのも生ぬるい、システムそのものを破壊するテロ行為と呼んで差し支えないでしょう。

 

英国から独立し、南北戦争という大きな内戦を経て今の民主主義システムを確立するまで、文字通り多くの血を流してきたのがアメリカ合衆国の建国の歴史です。ゆえに民主主義の否定は、アメリカ合衆国という国そのものの否定でもあります。

今回ばかりは民主党・共和党の両党がこの行為を声をそろえて非難し、これまでトランプ氏を擁護し続けてきた職員たちが相次いで辞任しているのは、これが最大の理由です。



2)テロ行為を扇動したのは現職の大統領

 

そして今回の事件を更に特異なものにしているのが、これを扇動したのが民衆の革命家などではなく、現職大統領のトランプ氏である、という点です。

 

この「扇動」に該当する行為が何なのか、というのが一部では争点になっているようですが、具体的には 1) 司法の場で証明することが出来なかった「選挙の不正」を長期間にわたって喧伝し、根拠のない陰謀論に加担したこと、2) 事件の直前、自身の支持者たちに向けて “We are gonna walk down to the Capitol, and I’ll be there with you (このスピーチの後、私と一緒に議会に向けて行進しよう) とスピーチしたこと、がこれに該当します。こちらは、実際のスピーチ映像です。

https://www.youtube.com/watch?v=6quOC6McLZU

 

また、事件の後に自身のTwitterに行った投稿では"These are the things and events that happen when a sacred landslide election victory is so unceremoniously & viciously stripped away."(神聖な選挙が汚され、奪われると、こういう事態が起こるんだ)と、このテロ行為を容認するような投稿もあり、トランプ氏のTwitterは永久に閉鎖されるという事態に陥ったわけです。

 

日本でも一部の熱心なサポーターの方々が「トランプ氏は暴徒たちに冷静に家に帰るように促していた」というご意見をTwitterで発信され、言論の自由を理由にトランプ氏を擁護する向きも強いようなのですが、その肝心の動画も 「選挙は奪われた」という主張からスタートしており、残念ながら暴力を止めようという強いメッセージにはなっていません。

https://www.youtube.com/watch?v=tcfcTB9-S2s

 

上記を総合的に判断すると、いまトランプ氏の発言が更なるテロ行為を誘発する可能性は高く、ソーシャルアカウントの停止は妥当である、と考えざるを得ないかと思います。



3)これまでマジョリティであった白人がテロの首謀者に

 

そして、これはあまり日本では報じられていない点なのですが、今回の事件を主導した集団が白人男性を中心に構成されている、というのが過去のデモやテロ事件と比較した時に非常に特異な点です。

 

特に国内外でいま大きな議論を呼んでいるのが、昨年から続いているBLM (Black Lives Matter)運動に対する厳格な統制と、今回議会で一般民衆の占拠を許した「甘い」セキュリティとの差です。

最も警備が厳しいはずの議会を一般民衆が襲撃するなど、もし首謀者が白人でなければ容赦なく射殺されてしまい、不可能だったはずだ、というわけです。

 

こちらはイギリスのBBCが議会襲撃の際、警備員が簡単に暴徒の通過を許してしまっている様子について報じた映像です。警備が簡単に暴徒を中に招き入れているような場面が見受けられます。

https://www.youtube.com/watch?v=EJMaCyibnsM

 

この映像は中々に衝撃的で、人種間の平等を謳う多民族国家のアメリカでさえ、そしてその中枢のワシントンでさえも、結局のところはやはり白人主義なのかもしれない、という現実をまざまざと世界に見せつけてしまいました。

 

こちらは世界的なアイスクリームブランドであるBen & Jerry’s のTwitterアカウントですが、彼らはこの事件について「白人至上主義を守ろうとする暴徒の集まりであり、抗議などではない」と厳しく断罪しています。

https://twitter.com/benandjerrys/status/1347288065606344704

 

いまアメリカは、これから民主主義国家、そして多民族国家として一体どんな姿を目指していくのか、という大きな問いを突きつけられています。この事件は、まさに現在のアメリカが抱える病巣を、全世界に向けて白日の下に晒しだしてしまった、重大な出来事だったと言えるでしょう。

 

いかがだったでしょうか。

今回の事件が、単なる愚か者たちによる馬鹿騒ぎなどではなく、実に多くの論点を孕んだ事件だということがお分かりいただけたことと思います。

 

少しでも、今後のニュースの理解にお役に立てれば幸いです。

 

それでは!

 

 

 

 

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