BRAND DESIGN | 人生に大きな影響を与えてくれた作品たち(3)クロノ・トリガーとサピエンス全史(前篇)

 Written by TAN

/ Architect, Creative Director, CEO

 

September 12, 2020

 

 

築家の山之内淡です。

今回からの前・後篇の記事では、自分の人生に大きな影響を与えてくれた作品として、「物語」という観点から、2つの作品を取り上げたいと思います。

 

1つめは、自分も含めて今なお熱いファンが数多くいる “クロノ・トリガー” という名作RPGについて。

2つめは、出版されるやいなや世界的大ベストセラーとなり、日本でも大きく話題になった、歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏著の “サピエンス全史” についてです。

 

“クロノ・トリガー” は、1995年に発売されたスーパーファミコン用のRPGですし、

“サピエンス全史” は、2016年に刊行(英語版は2011年刊行)された文化人類学の論考です。

時代も分野も異なりますし、一見すると、上記の2つは全く関連のない作品に見えるかと思います。

 

それら質の異なる2つの作品を、「物語」という観点から横断し、

個々の作品に関する紹介からはじめ、“猫” という他者(人間とは別の「物語」をもつ愛すべき存在)と暮らす私たちにとって、より普遍的なテーマまで広げてお話できたら…と思っています。

 


 

* スーパーファミコン用RPGとして発売されたクロノ・トリガーは、その後、様々なプラットフォームに移植&アップデートが繰り返され、現在も多くのファンに親しまれています

* https://www.jp.square-enix.com/chronotrigger/

 



 

* ユヴァル・ノア・ハラリ著, 柴田裕之訳, 河出書房新社, 2016

* https://amzn.to/3jOPwkb




今回の前篇では、“クロノ・トリガー” について、ご紹介するところからはじめたいと思います。

「普段ゲームをプレイしない」「クロノ・トリガーって何?」という方も多くいらっしゃると思うので、本作誕生の背景から、簡単にご紹介していきます。

 

“クロノ・トリガー” は、前述したように、名作と名高い歴史に残るRPG(ロール・プレイング・ゲーム)です。

では、本作は「なぜ歴史に残ったのか?」

その理由は、大きく分けて2つあります。



1つめの理由は、当時ライバル同士だった、日本を代表するゲーム開発会社 “SQUARE(スクウェア)” と “ENIX(エニックス)” が、「コラボレーションをして誕生させたタイトル」であることです。

 

現在は、“SQUARE ENIX(スクウェア・エニックス)” という社名で、1つの会社になっています。

しかし、“クロノ・トリガー” が発表された1995年当時は、“ファイナルファンタジー” シリーズを擁する “SQUARE” と、“ドラゴンクエスト” シリーズを擁する “ENIX” の両社は、別々の会社でした。

 

ライバル社同士が手を組み、“ファイナルファンタジー” と “ドラゴンクエスト” の主要スタッフが集結し、ドリームチームを結成して誕生させたのが、本作 “クロノ・トリガー” なのです。

当時の止まらないドキドキとワクワクは、今でも鮮明に覚えています…。

そのような経緯があり、“クロノ・トリガー” というタイトルは、日本のコンテンツの歴史を語る上でも、非常に大きな出来事のひとつといえます

 


 

* シナリオを "ドラゴンクエスト" の堀井雄二氏が、プロデューサーを "ファイナルファンタジー" の坂口博信氏が、キャラクターデザインを "ドラゴンクエスト" と同じく漫画家の鳥山明氏が担当  まさに「ドリームチーム」でした

* https://www.jp.square-enix.com/chronotrigger/




そして、“クロノ・トリガー” が歴史に残った2つめの理由は、「作品性の高さ」にあります。

 

例えば、登場人物ひとりひとりの生い立ちや、人生の機微をも織り込んだ精緻な人物造形。

例えば、時空を越えて仲間たちと旅をする、スケールの大きさと、人間ドラマのディテールを両立させた完成度の高いシナリオ。

例えば、魔法と剣の中世的ファンタジー世界と、近未来的スチームパンク世界を融合させた、これまでになかった新しい世界観。

 

発売されたのは1995年。まだスーパーファミコン時代です。

厳しいデータ容量の制限がある中で、本作は、名作映画に負けずとも劣らない、高い作品性を実現した類まれなる作品であると思います。

特に、サウンド・コンポーザーの光田泰典さんが生み出した「BGM楽曲の美しさ」は心から素晴らしく、自分も未だに繰り返し聴いています。

 


 

* “クロノ・トリガー” のオリジナルサウンドトラック 20年以上前に購入し大切にしている私物です

* https://amzn.to/3jOvlTN



 

ここまでの内容を整理すると、「ライバル同士がコラボレーションをして誕生させたタイトル」であり、同時に、その類まれなる「作品性の高さ」故に、“クロノ・トリガー” は、歴史に残る名作として、今なお高く評価され続けているといえます。



自分は、新卒で博報堂に入社し、広告クリエイターとしてキャリアをスタートした、建築家としてはとても珍しい経歴をもっています。

同時に、情報デザインの修士号も取得しています。

更に、Mr. & Ms. Cat を創業したことで、2つの会社の経営者になりました。

つまり、「建築」「広告」「デジタル」「経営」すでに4足の草鞋を履いているのです。



なぜ、そのような回り道をしたのか?

遠回りの理由はすべて、「異分野の方々とのコラボレーションを実現するため」に他なりません。

 

幸いにも、自分は父が建築家ですので、最短ルートで建築家になることは十分可能な環境であったといえます。

しかし、多感な時期に “クロノ・トリガー” の圧倒的なコラボレーションの魔法に魅せられ、自分も建築家として、異分野の方々とのコラボレーションを通して、これまでにない作品を生み出したいと思い、遠回りすることを決めました。

Mr. & Ms. Cat も、多くの異分野の方々とのコラボレーションによって実現しています。



 

もうひとつ、”クロノ・トリガー” からもらった大きな影響は、「先入観にとらわれず、全力を尽くして良いものを創る」という、モノづくりに対する姿勢です。

 

1995年当時は、まだ「ゲームをすること」は子どもの遊びであり、教育的な観点からも、例えば映画鑑賞や読書と比較した際に、一般的には「よろしくないもの」と認識されていたように思います。

自然と、つくり手側も、そうした世の中の雰囲気に合わせてしまうものなのか、映画など他の分野と比較して「作品」と呼べるほどの質のゲームは、ほとんどありませんでした。

 

しかし、本作 “クロノ・トリガー” は、違いました。

子どもながらに、「大人の本気のモノづくり」の熱量を感じましたし、そうした「本物の迫力」は必ず受け手に伝わるものです。

 

スティーブン・スピルバーグは、映画 “ジョーズ” を制作した際に、こんなことを語っていたといいます。

「みんな僕のことを褒めてくれるけど、僕がやったのは特別なことじゃないんだ。ただ、子ども向けの題材だからといって、舐めてかかって創るようなことは一切しなかっただけだよ。」




「先入観にとらわれず、全力を尽くして良いものを創る」という、モノづくりに対する姿勢も、Mr. & Ms. Cat に大きく活かされています。

 

Mr. & Ms. Cat は、グローバルなファッション・ブランドやプロダクト・ブランドと比較しても、何ら遜色ない、むしろ大きく凌駕するクオリティのブランドを目指しています。

 

“クロノ・トリガー” という作品がそうであるように、かつてのスティーブン・スピルバーグという若手の映画監督がそうであったように、先入観にとらわれることなく、皆さまにお届けする質を追求したいと思っています。




そんな自分の人生にとって、とても大きな影響を与えてくれた “クロノ・トリガー” ですが、冷静に考えると、たった1本のテレビゲームであったことは事実です。

人によっては、影響を受ける対象が、映画であったり、小説であったり、音楽であったり、漫画であったり、はたまた絵画や彫刻、建築や現代アートであったりすると思います。

 

人によって、分野やフォーマットは異なれど、強い影響を与えてくれる作品の本質は、私たちを魅了してやまない「物語」が核に宿っていることにあると思います。

だからこそ、数々の作品たちは、その作品そのものの記憶は時間と共に薄れていったとしても、私たちの血となり肉となり、人生に影響を与えて続けてくれるのでしょう。



そんなことを悶々と考え続けているうちに、ふと、ひとつ疑問が浮かんできました。

「なぜ、私たちは、こんなにも『物語』に魅せられ、影響を受けるのだろうか?」と。

考えはじめると、答えるのが非常に難しい問いで、腑に落ちない時間が続きました。

 

長らく抱いてきた疑問に、2016年に読んだ一冊の本が、回答を示してくれたように思います。

それが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が著した “サピエンス全史” だったのです。




続く(後篇)では、ユヴァル・ノア・ハラリ著  “サピエンス全史” について、概要をご紹介しつつ、

「なぜ、私たちは、こんなにも『物語』に魅せられ、影響を受けるのだろうか?」という長年の疑問について、掘り下げてお話していきたいと思います。




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