BRAND DESIGN | 人生に大きな影響を与えてくれた作品たち(2)建築家 フランク・ゲーリー

 Written by TAN

/ Architect, Creative Director, CEO

 

September 6, 2020

 

 

築家の山之内淡です。

今回は、自分が建築家になりたいと思ったきっかけのひとつでもある、世界的巨匠 Frank. O. Gehry(フランク・O・ゲーリー)(以下、フランク・ゲーリー)という建築家と、その作品についてお話します。

これまで同様、建築やデザインが専門でない方にも、なるべくわかりやすく書きたいと思います。




建築家フランク・ゲーリーは、2020年9月の本記事執筆時点で、何と…御年91歳です。

しかし、今なお世界の第一線を走り続けています。

「生ける伝説」と呼んでも何ら差し支えない、すでに歴史に名前が残っている…存命の偉大な建築家です。

有名な “シンプソンズ” にもキャラクターとして登場しており、(日本でいえば宮崎駿監督のような)誰もが名前を知っているであろう、巨匠中の巨匠建築家。




* The Simpsons(シンプソンズ)に登場するフランク・ゲーリー

https://simpsonswiki.com/wiki/Frank_Gehry_(character)




* Walt Disney Concert Hall, 2003

* フランク・ゲーリーの名前を世界中に知らしめた代表作品のひとつ

https://www.archdaily.com/441358/ad-classics-walt-disney-concert-hall-frank-gehry




そんなフランク・ゲーリーですが、彼が世界的な巨匠になっていく道のりは、決して平坦ではなく、非常に険しいものでした。

扱う資金の大きさと関わる人員の多さから、そもそも職業の特質として、建築家は大器晩成になりがちです。

その中でも、フランク・ゲーリーは、とりわけ遅咲きの建築家なのです。

彼の生い立ちについても、触れていきたいと思います。




* Frank. O. Gehry, 1929 -

* お気に入りのフランク・ゲーリーの写真です…世界的巨匠となってもなお現在の建築を痛烈に批判する挑戦者としての姿…痺れます

https://www.theguardian.com/artanddesign/2014/oct/24/frank-gehry-journalist-finger-architecture-shit




御年91歳のフランク・ゲーリー。

2010年代に入ってからもその勢いは全く衰えることなく、南フランスの芸術文化複合施設、アブダビのグッゲンハイム美術館、ルイ・ヴィトン財団美術館など、続々と印象に残る建築を発表し続けています。




* Luma Arles Tower, 2020

* 南フランスに建築されている芸術文化複合施設

* https://www.dezeen.com/2020/03/05/frank-gehrys-luma-arles-tower-near-completion-photography/




* Fondation Louis Vuitton, 2014

* 2014年に竣工したパリのブローニュの森の中にあるルイ・ヴィトン財団美術館

https://www.archdaily.com/555694/fondation-louis-vuitton-gehry-partners




* Abu Dhabi Guggenheim Museum, 2019 -

* 2019年から建設が始まったアブダビのグッゲンハイム美術館

https://www.archdaily.com/916177/gehrys-guggenheim-abu-dhabi-set-to-begin-construction




世界三大建築賞とされている、建築界のノーベル賞といわれる “プリツカー賞”、150年ほどの歴史がある王立英国建築家協会(RIBA)から優れた建築家に対して与えられる賞 “RIBAゴールドメダル”、アメリカ建築家協会(AIA)から優れた建築家に対して与えられる賞 “AIAゴールドメダル”、もちろんすべて受賞しています。


名実ともに世界最高の建築家のひとりであるフランク・ゲーリーですが、前述したように、そこに至るまでの道のりは険しいものでした。




まず、フランク・ゲーリーは、ユダヤ人であり、建築家として名を馳せる前に、「ゴールドバーグ」という名字から、現在の「ゲーリー」へと、改名を余儀なくされています。


10代の頃に、トラックの運転手の仕事をしながら、シティカレッジの夜間学校に通い、美術や建築を学び始めます。

その後は、大学に進学し、美術史や陶芸や建築について学び、建築学の学士号を取得。


教師たちには、才能がない、と言われ、それでも建築の道を諦められなかったことを、

彼についての心から素晴らしいドキュメンタリー映画 “SKETCHES OF FRANK GEHRY” のインタビューで語っています。




* SKETCHES OF FRANK GEHRY, 2005

* フランク・ゲーリーの長年の友人であるシドニー・ポラック監督によるドキュメンタリー映画

* https://amzn.to/2Z44evT




フランク・ゲーリーは、その後、戦争への徴兵や建築事務所での勤務を経て、自身の建築事務所を設立します。

しかし…日の目を見ることがないまま、40歳代を過ごすことになってしまいます。


事務所の破産を心配する日々から、心理カウンセラーにも通うことになります。

そのカウンセラーの先生がとても素敵な方で…上記のドキュメンタリー映画 “SKETCHES OF FRANK GEHRY” にも登場します。




そんなフランク・ゲーリーに、1978年、1つの大きな転機が訪れます。


サンタ・モニカの自邸を、安価にリノベーションした建築が、多くの人の心を捉え話題になったのです。

その自邸は、後に “ゲーリー自邸(Gehry Residence)” と呼ばれ、後世に語り継がれる名建築となります。

フランク・ゲーリーは、自邸のリノベーションをきっかけに、一躍注目の建築家となったのです。

50歳を目前にした、あまりに遅いといえる、建築家としての評価でした。




* Gehry Residence, 1978

* フランク・ゲーリーの自身の家のリノベーション 安価な素材が大胆に使用されている

https://www.archdaily.com/67321/gehry-residence-frank-gehry




“Gehry Residence” 発表後のフランク・ゲーリーは、まさに、目を覚ました獅子のごとく、名作・奇作を、次々に発表していきます。


世間も、彼が天才なのか、はたまた奇人なのか、判断できず、常に評価は賛否両論、話題の絶えない建築家として、フランク・ゲーリーの名は広がり、どんどん注目されていきます。



そこから、10年ほどの悪戦苦闘を経て、1989年、60歳のフランク・ゲーリーは、またひとつ歴史に残る名建築を生み出します。

世界的な家具ブランド “Vitra” の “Vitra Design Museum” です。




* Vitra Design Museum, 1989

* まだ手書きによる製図の時代で、3DCADなどない時代の建築です…驚愕します

* https://www.archdaily.com/211010/ad-classics-vitra-design-museum-and-factory-frank-gehry




“Vitra Design Museum” の発表によって、確固たる建築家としての評価を確立したフランク・ゲーリーは、

数年後、グッゲンハイム財団による建築コンペティションに勝利し、20世紀の最高傑作ともいわれる “Bilbao Guggenheim Museum” を生み出します。



 

 

* Bilbao Guggenheim Museum, 1997

* 20世紀の最高傑作ともいわれるフランク・ゲーリーの代表作品

* https://www.archdaily.com/422470/ad-classics-the-guggenheim-museum-bilbao-frank-gehry




ビルバオのグッゲンハイム美術館の真の素晴らしさは、建築そのものの魅力もさることながら、スペインの片田舎にあるビルバオという街そのものを、一大観光都市へと激変させたことにあります。

最初の3年間だけで、何と…400万人以上が「フランク・ゲーリーの建築を味わうためだけに」片田舎の街を訪れ、結果、ビルバオは世界でも有数の観光都市へと変貌を遂げます。

その莫大な経済効果を含め「ビルバオの奇跡」とも呼ばれています。


2010年に世界建築調査機関が行った調査では、”Bilbao Guggenheim Museum” は、1980年以降の30年間でもっとも重要な建築物のひとつとされています。




最後に。自分は、父が建築家なのもあり、フランク・ゲーリーの作品が載った建築雑誌を、小学生の頃に見ました。

その作品に衝撃を受け、感動し、自分も建築家になりたい…と強く思ったことを、今でも覚えています。

フランク・ゲーリーのどこまでも諦めない姿勢、それと同居する楽観主義、型を破る生き様、そして建築を愛する気持ちは、自分にとって、本当に大きな影響を与えてくれたと思います。



 

次回からは、分野をガラッと変更し、"クロノ・トリガー" という歴史に残る名作RPGと、

まだ記憶に新しい世界的大ベストセラー、歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏著の "サピエンス全史" を交えて、

「物語」について、お話したいと思っています。

お楽しみにお待ちください。



 

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