BRAND VIEW | 紛争はなぜ起きるのか ― ナゴルノ・カラバフを巡る戦い

Written by YUKI

/ CFO

 

October 11, 2020

 

 

皆さんこんにちは。

 

今回は先日お伝えした米国大統領候補同士の公開討論に続いて行われた副大統領候補の公開討論について書きたいと思っていたのですが、残念ながら非常に内容に乏しく、ペンス副大統領の頭にとまったハエが殆どの話題をさらっていった始末でした。

 

したがって今週は別のニュースについてお話ししたいと思います。

日本ではあまり報じられていない、9月下旬に勃発し、つい先日停戦交渉の開始が報じられたアルメニア - アゼルバイジャン間の紛争についてです。

両軍ともに死者が発生し、危うく大規模な戦争に発展するかというところでロシアが仲介に入った今回の紛争ですが、未だ交渉次第では再び戦闘が開始されるかもしれないという危うい状況が続いています。

 

私は学生時代に仲が良かったアルメニア人の友人に一度だけアゼルバイジャンについて話を聞いたことがあるのですが、この二国間の関係がいかに険悪かは一目瞭然でした。

その友人は普段は温厚で知的で優しい人なのですが、アゼルバイジャンの話になると途端に厳しい表情で、まるで悪魔のごとくアゼルバイジャンを罵りはじめたからです。

 

一体彼らの紛争の原因は何なのでしょうか。

歴史的な経緯について簡単に振り返りつつ、思うことについて書いてみたいと思います。

 

アルメニアとアゼルバイジャンの対立は、旧ソ連時代に遡ります。

現在のアゼルバイジャンの領土内、アルメニアの国境にほど近いところに、ナゴルノ・カラバフという美しい高原地帯があります。

ここは伝統的に人口の大半をアルメニア人が占める地域なのですが、1917年のロシア革命時に、当時のボリシェビキ(後のソ連共産党)が、アゼルバイジャン共和国に併合してしまいました。

当時はアルメニア共和国もアゼルバイジャン共和国もともにソ連の支配下にあったため、この併合はそれほど大きな問題にならなかったと言われています。

 

しかし1980年代後半に入りソ連が弱体化すると、ナゴルノ・カラバフがアルメニアとアゼルバイジャンのどちらに属するのか、というのは極めて大きな問題へと発展していきました。

もともと人口の殆どはアルメニア人な上、アルメニアとアゼルバイジャンでは宗教も大きく異なる(アルメニアはキリスト教、アゼルバイジャンはイスラム教)ため、彼らがアルメニアへの編入を求めるのは至極当然の成り行きと言えます。

一方、アゼルバイジャンにはアゼルバイジャンで、この地域は自国に帰属するべきだという強い認識と歴史的な根拠があるわけです。

 

1991年にソ連が崩壊すると両国は一気に戦争へと突入し、両国ともに多数の死者を出しました。

当時アルメニアの約3倍もの人口を持っていたアゼルバイジャンでしたが、両軍の士気の差やロシアがアルメニアを支援していたことなどもあり、1994年、この戦争はアルメニア優勢で停戦を迎えました。

そして、ナゴルノ・カラバフはアルメニアの実行支配下に置かれることが決まりましたが、その後も両国の火種として長年くすぶり続けてきた、というわけです。

 

今回の紛争再燃は、アルメニアを支援するロシアとアゼルバイジャンを支援するトルコの関係悪化、原油価格の大幅下落によるアゼルバイジャンの財政悪化、新型コロナウィルスの流行による社会ストレスの増大など、様々な複合的要因の結果だと言われています。現段階で大規模な戦争に発展する可能性は低いと考えられているものの、例え今回の紛争が収まったとしても、この問題が将来に向けて残り続けていくことは間違いありません。

 

さて、先に書いた通りこの紛争が日本で大きく報じられることはほとんどありません。

恐らくこの紛争の経緯について聞いたことがなかった方が大半だと思います。私も、たまたまアルメニア人の友人がいなければ、恐らく興味を持つことはなかったでしょう。

 

皆さんはこの記事を読んでみて、どのような印象をお持ちになったでしょうか。

悲しい話であると同時に「どこかで聞いたことのある話」と思われた方も多いのではないかと思います。

 

そう、これは世界のどこにでもある、実にありふれた話です。

幸い軍事的な衝突には発展していませんが、北方領土や尖閣諸島、竹島など、未だ多くの国境問題を抱える日本にも、通じるところがたくさんあります。

 

今回の衝突で1つ特徴的だったのは、両国の政府がオンライン上で情報戦を展開し、国民が自国メディアの主張をSNS上で拡散したことです。

どちらの国民とも、心の底から自国が正しいことを心の底から信じ、発信しているのです。

今後、世界のいかなる紛争においても恐らく同じ現象が見られることでしょう。

 

この出来事から1つ誰もが学ばなければならないのは、私たちが同じ立場に置かれたとき、必ず自国メディア以外からの情報を積極的に収集した上で、自分の立場を決めるべきだということです。

自分の国の情報だけを信じ、相手の国の情報を間違いだと断じ、一方的な情報を拡散し続けることは積極的に戦争に加担すること、そして未来に向けて争いの種を撒き続けることと同じです。

 

もちろん誰もが自分の国を愛しているがゆえに自分の国の正しさを信じたい。

それゆえに反対意見や中立意見に耳を傾けることは難しいのですが、断固たる理性と決意をもって、やらねばならないことなのです。

 

最後に、私が大好きな漫画『ドラえもん』の有名なセリフでこの記事を締めくくりたいと思います。

タイムマシンで過去に遡り、「悪い方の殿様」を捕まえて「良い方の殿様」に差し出して戦争を解決しようとした無邪気なのび太くんにドラえもんが言った一言です。

 

「どっちも、自分が正しいと思ってるよ。戦争なんてそんなもんだよ」

 

 

 

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