BRAND VIEW | 出版不況の真実 -本屋から商社へ-

Written by YUKI

/ CFO

 

February 25, 2021

 

 

皆さんこんにちは。

 

最近は暖かい日と寒い日の差があまりにも大きいせいか、体調もメンタルも天候に少なからず引きずられている気がします。人間、自然には勝てないということでしょうか…。

 

皆さんもくれぐれも体調にはお気を付けください。

 

さて、つい先週、日本を代表する出版社の1つ、講談社の決算が発表になりました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55875030Q0A220C2X30000/

 

講談社は上場企業ではないため詳しい財務資料がないのですが、売上高は前年比12.7%増で1358億3500万円を記録、営業利益に至っては前年比293.8%増で約89億円と、かなりの好業績を叩きだしたようです。

 

売上の内訳は「製品」が643億1000万円(前年比3.9%減)、「広告収入」が59億2600万円(同18.4%増)、「事業収入」613億7000万円(同38.5%増)、「その他」10億6700万円(同0.5%増)、「不動産収入」31億6000万円(同0.3%増)と、いま価格が上昇している不動産事業ではなく、しっかりと本業で売上を伸ばしていることが伺えます。

 

「出版不況」が叫ばれて久しい中、この業績には少し驚かれた方も多いのではないでしょうか。

 

今回は、この講談社の決算を見ながら、いま日本の出版社が目指している方向について考察と私見を述べたいと思います。

 

まずは、近年の出版業界の市況についておさらいです。

下の図は「出版指標 年報 2020年版」に掲載されている日本の出版販売額の推移です。

 

 

 

 

書籍・月刊誌・週刊誌と全てのカテゴリーで、1996年頃を境に販売額が落ち続けていることが分かります。

 

「出版不況」の名に違わず、確かに本は年々売れなくなってきています。

 

一方、こちらはコミックの販売額です。

 

 

 

 

コミックスもコミック誌も他のカテゴリと同様に売上が落ち続けている一方で、こちらは代わりに電子コミックの売上が凄まじいペースで増加していることが伺えます。

 

2017年には既に紙のコミックスと電子コミックの売上は逆転し、現在ではコミックス部門の売上の6割を電子が占めている状況なのです。

 

その一方で、雑誌や書籍については未だ電子の売上は5%に満たないと言われています。

 

以上の内容をまとめると、出版業界で今起きている現象は「コミックスの大半が次々に電子に入れ替わり、それ以外の本は電子でも紙でも売れなくなっている」ということになります。

 

これが世にいう「出版不況」の真実です。

実際のところ不況なのはマンガ以外のジャンルだけだったわけですね。

 

そして講談社の決算でもう1つ見逃せない成長ポイントがありました。

それは「事業収入」です。前年比38.5%も成長し、613億7000万円もの売上を計上した出版社の「事業収入」とは一体何のことでしょうか。

 

これは端的に言うと「作品の権利」の販売を指します。

例えばマンガ作品の映画化権やドラマ化権、グッズ化権など、作品に関連する様々な権利をバラバラにして色んな企業に販売するビジネスです。

 

内訳をみると、デジタル関連収入が465億円(前年比39.2%増)、国内版権81億円(同36.5%増)、海外版権が66億円(同39.5%増)と、全てのカテゴリーが大きく成長していることが分かります。

 

さて、以上を総括してみると、いま講談社が目指している将来像、そして全ての出版社の未来の姿が明確に浮かび上がってくると思います。

 

それは「本を出版して販売する会社」という従来の姿を脱却し、「マンガを中心としたコンテンツを集積し、それをあらゆる形で収益化する企業」、言い換えれば「エンタメコンテンツの広告代理店かつ専門商社」へと生まれ変わることです。

 

考えてみればこれは実に自然な成り行きです。

Amazonが無料で書籍を制作・販売することを可能にし、紙にさえこだわらなければ自分のSNSで好きなだけイラストやマンガを発表できるこの時代、単に本を出版できる会社というだけでは作家は作品を預けてくれません。

 

大切な作品を世の中に宣伝し、電子化し、その権利を使って国内外から更なる大金を稼いで作者に還元してくれる企業にこそ、優れたコンテンツは集まります。

 

となれば、紙が売れなくなるにしたがって出版社がより商社や広告代理店のような業態に進化していくことは当然のことです。

 

恐らく出版社が表立ってそうしたメッセージを発しないのは、紙の書籍を大切にしている作家さんや、書店や取次業者をはじめとする各関係者に気を遣っているだけ...ではないでしょうか。

 

私には、どんなプレスリリースや広告よりも、この決算の数字こそが彼らが真に目指している姿を雄弁に語っているように思えてならないのです。

 

これから10年の出版社では「編集」や「営業」などの出版人材が減っていく一方、代わりに「事業開発」「海外事業」「M&A」「IT」「マーケティング」などのエキスパートが主力へと躍り出ていくと私は予想します。

 

一体どの出版社が新たな時代の勝者となるのでしょうか。

 

これからの出版ビジネスから、目が離せませんね。

 

それでは!




 

 

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